大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成12年(ワ)5304号・平7年(ワ)5093号 判決

原告兼参加人(脱退原告アライアンス・アツシュアランス・カンパニー・リミテッド及び同フイニックス・アツシュアランス・パブリック・リミテッド・カンパニー承継人) ザ・ロンドン・アツシュアランス

日本における代表者 イアン・ドリーバ・ファーガソン

右訴訟代理人弁護士 木本寛

同 寺澤弘

同 玉田斎

同 伊藤義豊

同 片山正彦

同 若松恭子

被告兼被参加人 東洋熱工業株式会社

右代表者代表取締役 野末尚

右訴訟代理人弁護士 羽成守

同 菅谷公彦

同 西島幸延

脱退原告 アライアンス・アツシュアランス・カンパニー・リミテッド

日本における代表者 イアン・レイモンド・キャロル

脱退原告 フイニックス・アツシュアランス・パブリック・リミテッド・カンパニー

日本における代表者 イアン・レイモンド・キャロル

主文

一  被告兼被参加人は、原告兼参加人に対し、六五四五万七七八三円及びこれに対する平成七年一〇月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告兼参加人のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を被告兼被参加人の負担とし、その余を原告兼参加人の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告兼被参加人は、原告兼参加人に対し、九二一六万六四七二円及びこれに対する平成七年一〇月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事実関係

一  事案の概要

ホテル経営を業とする東明観光株式会社(以下「東明観光」という。)と建築請負等を目的とする村本建設株式会社(以下「村本建設」という。)ホテル建築工事請負契約を締結し、被告兼被参加人(以下「被告」という。)は、村本建設から、このうち給湯用配管設備工事を下請けした。

右工事完了から約五年七か月経過後、給湯用配管設備のパイプの接合部が抜け、大量の温水等が流出して右建物が水浸しになるという事故が発生した。

東明観光らは、原告兼参加人(以下「原告」という。)らとの間で、右建物等に関する損害保険契約を締結しており、原告らは、右契約に基づいて、東明観光らに対し、右事故の保険金を支払った。

本件は、原告が、右事故の原因は、被告がパイプを接続する際、抜けたパイプの接合部に接着剤を塗布しなかったことにあるとして、東明観光らから保険代位により取得した被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したのに対し、被告が、接着剤は塗布したなどと主張して、原告の請求を争った事案である。

二  争いのない事実等

以下の事実は当事者間に争いがないか又は証拠及び弁論の全趣旨によって明らかに認められる。

1  原告、脱退原告アライアンス・アツシュアランス・カンパニー・リミテッド及び同フイニックス・アツシュアランス・パブリック・リミテッド・カンパニー(以下では、右の三者を合わせて「英国保険団」という。)は、いずれも英国法に準拠して設立された保険事業を目的とする会社である。

被告は、給排水等に関する施設の施工等を目的とする会社である。

2  東明観光と村本建設は、昭和六三年ころ、東明観光を注文者、村本建設を請負人とし、鉄骨・鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付九階建旅館兼店舗(名古屋市中区栄五丁目一番七号所在。以下「本件建物」という。)の建築工事請負契約を締結した。

村本建設と被告は、同じころ、本件建物の給湯用配管設備(以下「本件設備」という。)工事について、被告を下請人とする下請契約を締結し、被告は、右下請契約に基づき、本件設備の設置工事を施工した。

3  本件設備は、重力式給湯方式によるもので、屋上にストレージタンクという給湯用タンクを設置し、これに積水化学工業株式会社(以下「積水化学」という。)製のエスロンHT一〇〇パイプ(耐熱性硬質塩化ビニル製。直管。呼び径一〇〇ミリメートル)を直結し、ここから枝分かれして、パイプとパイプをつなぐ同じくエスロンHT二〇継手(同。管が直角に屈曲し、その両端の内面にパイプ外面が接合されるもの。呼び径二〇ミリメートル。以下「エルボ」という。)を接合し、これに同じくエスロンHT二〇パイプ(同。直管。呼び径二〇ミリメートル。以下「パイプ」という。)を接合して各室に給湯するというものであった。

4  パイプとエルボの接続工法は、パイプの管差口外面とエルボの管受口内面の接合部にそれぞれ専用接着剤を塗布することによって、塗布面に厚さ約〇・一ミリメートルの膨潤層ができてパイプが無理なくエルボに挿入でき、さらに力を加えてパイプを差し込むことによって、塩化ビニル製のパイプの弾性によって管が絞られ、エルボの管受口内面が押し広げられて、パイプの変形が生じ、パイプとエルボの接合が完成することとされている。

5  村本建設は、平成元年一一月ころ、本件建物を完成させて、東明観光に引き渡した。

東明観光は、本件建物のうち、地下一階部分を除いた部分で「ホテルアスティア」という名称でビジネスホテルを営業し、マツヤ観光株式会社(以下「マツヤ観光」という。)は、地下一階店舗部分を東明観光から借り受け、「華屋」という名称で居酒屋レストランを営業していた。

6  本件設備において、完成後平成七年六月一四日までの間、漏水は発生しなかった。

7  平成七年六月一五日午前一〇時三〇分ころ、本件建物三階のホテル客室三〇四号室と三〇五号室の間に設置されたパイプ(以下「本件パイプ」という。)とエルボ(以下「本件エルボ」という。)の接合部が抜けた。

このため、推定約七・五立方メートルの温水及び水蒸気が本件建物の三階から地下一階にかけて流出した(以下「本件事故」という。)。

8  原告代理人は、平成八年五月二三日、当裁判所に対し、茶色の塩ビパイプ一本(クレームNO.41と書かれた紙がはってあるもの。以下「保管物パイプ」という。)及び割ったパイプ二個(以下「保管物エルボ」という。)を提出した(当庁民事保管物保管番号平成八年第一九号)。

9  原告は、平成一〇年六月三〇日、脱退原告アライアンス・アツシュアランス・カンパニー・リミテッド及び同フイニックス・アツシュアランス・パブリック・リミテッド・カンパニーが我が国において保有していた保険契約の全部を包括して承継した。

三  争点

1  被告が本件パイプと本件エルボを接続する際、その接合部に接着剤を塗布しなかったか否か(本件パイプ及び本件エルボと保管物パイプ及びエルボとの同一性)。

2  被告が接着剤を塗布しなかったことと本件事故との間の因果関係

3  本件事故による損害額

四  主張

1  原告の主張

(一) 損害保険契約の締結

(1)  英国保険団と東明観光は、平成六年一〇月二六日、英国保険団を保険者、東明観光を保険契約者兼被保険者とする別紙保険契約目録一ないし三記載の各損害保険契約を締結した。

(2)  英国保険団とマツヤ観光は、同日、英国保険団を保険者、マツヤ観光を保険契約者兼被保険者とする別紙保険契約目録四記載の損害保険契約を締結した。

(二) 本件事故原因

被告は、本件設備の設置工事において本件パイプと本件エルボを接続する際、本件パイプの管差口外面と本件エルボの管受口内面の両面に接着剤を塗布すべき義務があったにもかかわらず、これを怠り、そのいずれにも接着剤を塗布しなかった。保管物パイプ及びエルボは本件パイプ及びエルボそのものである。

たしかに、本件設備完成後本件事故までの約五年七か月間、本件パイプ及びエルボからの漏水はなかったが、これは、接合部への接着剤の垂込みによる部分接着状態やパイプの外径とエルボの内径の寸法にばらつきがあり、本件パイプと本件エルボの接合部の隙間がほとんどなかったことなどによって、ある程度の強度で接合していたこと、使用圧力が低かったこと、配管支持、配管状態等の偶然の条件によるものに過ぎない。

(三) 本件事故及び損害の発生

被告が本件パイプ及びエルボの接合部に接着剤を塗布しなかったことによって、本件事故が発生し、推定約七・五立方メートルの温水及び水蒸気が本件建物の三階から地下一階にかけて流出したため、本件建物、本件建物内の什器備品、事務用機器及び絵画等が水浸しになった。

(四) 損害額

本件事故によって、東明観光は後記(1) ないし(3) の各損害を、マツヤ観光は後記(4) の損害をそれぞれ被ったから、被告は右各損害を賠償する義務がある。

(1)  本件建物の損害額(東明観光の損害) 小計五四三二万七〇〇円

<1> 仮設工事 四二万円

<2> 地下一階店舗 一二万五〇〇〇円

<3> 一階フロント  四万五五〇〇円

<4> 一階事務室  五二万六一九五円

<5> 一階会議室  三六万九六八〇円

<6> 一階廊下   六四万四六〇五円

<7> 一階トイレ   七万円

<8> 一階ホール 三八〇万七四〇〇円

<9> 二階廊下   九九万九五八〇円

<10> 二階客室(八室) 二二五万八一五五円

<11> 三階廊下 九五万三一五〇円

<12> 三階客室(九室) 二六二万六二〇〇円

<13> 電気設備(九室。三、二、一階) 一三八三万円

<14> 空調換気設備 九六八万四八〇〇円

<15> 床(大理石) 三万五九二八円

<16> 六月一五日当初クリーニング 三五万円

<17> ホールエレベーター修理 七二万九〇〇〇円

<18> エアコン 八四万五〇〇〇円

<19> 電話交換機取替 四〇九万七〇〇〇円

<20> パントリー照明取替 五万九九九〇円

<21> 諸経費 三三四万五七三五円

<22> 消費税相当額 一三七万四六八七円

<23> 減価償却 ▲二三六万〇六〇五円

<24> 取片付費用 四四八万三七〇〇円

<25> 臨時費用 五〇〇万円

(2)  什器備品及び絵画の損害額(同) 小計二一四六万二八一二円

<1> フロント用備品 二七八万円

<2> 事務所・ロビー・会議室備品 六五八万五〇〇〇円

<3> パントリー用備品 二四万八〇〇〇円

<4> 客室(二、三階)内備品 四五〇万円

<5> カーテン(二階、八箇所) 一〇万〇八〇〇円

<6> ライディングデスク(二階、八箇所) 六七万二〇〇〇円

<7> カーテン(三階、八箇所) 一〇万〇八〇〇円

<8> ライディングデスク(三階、八箇所) 六七万二〇〇〇円

<9> ベッド 一八九万四〇〇〇円

<10> 伝票他事務用品 一四一万八七三〇円

<11> 封筒、バインダー 一〇万二〇九二円

<12> ユニフォーム 一〇三万一〇〇〇円

<13> 部屋用備品(櫛・紙タオル) 四四万一二五〇円

<14> ティッシュ 八〇四〇円

<15> 消火器 七万七四〇〇円

<16> ファックス (客室用追加) 五八万八〇〇〇円

<17> 客室用タオル(バスタオル・フェイスタオル) 五万二五〇〇円

<18> 絵画 四万一二〇〇円

<19> 取片付費用 一五万円

(3)  事務用品の損害額(同) 小計一七七万二〇〇〇円

<1> フロンサーナイン取替 一三九万円

(免責額五万円)

<2> 取片付費用 三万円

<3> 臨時費用 四〇万二〇〇〇円

(4)  地下一階の店舗内の損害額(マツヤ観光の損害) 小計二一三九万五三五〇円

<1> 仮設工事 四五万円

<2> 石、タイル工事 三五万円

<3> 天井工事 三六八万〇四七〇円

<4> カウンター工事 一〇七万七五〇〇円

<5> トイレ・洗面所内装工事 一二六万九二五〇円

<6> 戸棚工事 一三〇万円

<7> 装飾・金物工事 二三九万六〇〇〇円

<8> 床工事 四八万九〇〇〇円

<9> 電機設備工事 一六万七〇〇〇円

<10> 照明器具工事 二二三万六〇〇〇円

<11> 空調設備工事 三四八万五〇〇〇円

<12> 諸経費 四〇万五七八〇円

<13> 消費税 五一万九一八〇円

<14> 新旧交換差益控除 ▲一七八万三一八〇円

<15> 臨時費用 四八一万二六〇〇円

<16> 取片付費用 五四万〇七五〇円

(五) 保険金支払及び保険代位

英国保険団は、東明観光に対し、別紙保険契約目録一ないし三記載の各損害保険契約に基づき、平成七年一〇月一九日、本件事故の保険金として、前記(四)(1) ないし(3) (ただし、(2) については、<1>ないし<17>の保険金額二四八〇万円が保険価額二六七七万六〇〇〇円を下回ったため、<1>ないし<17>の合計二一二七万一六一二円に、保険価額二六七七万六〇〇〇円に対する保険金額二四八〇万円の比率を乗じて算出される一九七〇万一八二二円と<18>及び<19>の合計一九八九万三〇二二円)記載の合計七五九八万五七二二円を支払った。

英国保険団は、マツヤ観光に対し、別紙保険契約目録四記載の損害保険契約に基づき、同日、本件事故の保険金として、前記(四)(4) 記載の二一三九万五三五〇円を支払った。

したがって、英国保険団は、各損害保険契約の約款の定め又は商法六六二条一項に基づく保険代位により、右各保険金のうち各臨時費用を除いた合計八七一六万六四七二円について、東明観光及びマツヤ観光の被告に対する損害賠償請求権を取得した。

(六) 弁護士費用

英国保険団は、本件訴訟について、原告代理人と訴訟委任契約を締結し、弁護士費用として、五〇〇万円を支払うことを約した。

(七) 承継

争いのない事実等9を引用する。

(八) よって、原告は、被告に対し、東明観光及びマツヤ観光から保険代位により取得(一部、脱退原告アライアンス・アツシュアランス・カンパニー・リミテッド及び同フイニックス・アツシュアランス・パブリック・リミテッド・カンパニーから承継)した被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権八七一六万六四七二円及び弁護士費用五〇〇万円の合計九二一六万六四七二円並びにこれに対する代位時である平成七年一〇月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被告の認否及び主張

(一) 原告の主張(一)は知らない。

(二) 同(二)について、被告が、本件パイプ及び本件エルボを接続する際、その接合部に接着剤を塗布しなかったことは否認する。

被告は、本件パイプと本件エルボを接続する際、その接合部に接着剤を塗布した。本件パイプ及びエルボと保管物パイプ及びエルボとは同一ではない。

そうでなければ、本件設備完成から約五年七か月もの間、漏水が発生しないことはありえず、このことは、名古屋市工業研究所の試験結果からも明らかである。

本件事故原因は、パイプ及びエルボが塩化ビニル製であるため、もともと伸縮率が高く、また、本件設備の設定温度は六〇度ないし六五度であるにもかかわらず、東明観光が、本件設備を設定温度を大幅に超える七〇度ないし八〇度という高温で使用したためさらに伸縮性が高まり、早期の経年変化により管の劣化をもたらしたという使用方法の不適正にある。

したがって、仮に被告が本件パイプと本件エルボを接続する際、その接合部に接着剤を塗布しなかったとしても、このことと本件事故との間に因果関係はない。

(三) 原告の主張(三)について、本件事故が発生したことは認めるが、これが被告の過失によるものであることは否認し、損害については知らない。

(四) 原告の主張(四)は知らない。

原告が主張する損害の中には、本件事故と無関係な設備更新や損害額評価が著しく過大なものが含まれているほか、以下のとおりの問題がある。

(1)  空調換気設備

原告が主張する損害の中には、異常がなく現在も使用されているものまで計上されていたり、二重に計上されているものがある。

(2)  什器備品等

本件事故は本件建物三階の床から下に影響を与えたに過ぎないから、三階以上の什器備品、カーテン、ライディングデスク、壁面、天井及び電灯コンセント設備等に関する損害は本件事故との間に因果関係がない。

(五) 原告の主張(五)は知らない。

(六) 同(六)は知らない。

第三判断

一  保管物パイプ及びエルボの状況並びに接着剤の塗布の有無等

1  甲第一二号証、第二五号証、第四〇号証、検証の結果及び弁論の全趣旨によると、保管物エルボの状況は以下のとおりであると認められる。

(一) 保管物エルボの両端のうちの一つの管差口内面には、パイプの先端が接合されたままとなっており、その差込みしろは約二九ミリメートルである(以下「正常に接着された接合部」という。)。他の一つの管差口内面には、パイプの先端は接合されていない(以下「事故発生側の接合部」という。)。

(二) 正常に接着された接合部においては、差し込まれたパイプの先端の内面やパイプの先端のさらに先の保管物エルボ内面に黄土色の接着剤が相当量付着しており、これらと連なって保管物エルボ内面の屈曲部にも黄土色の接着剤が相当量付着している。

(三) 事故発生側の接合部は、先端から約一七ミリメートルの範囲は濃茶色でその先の部分は相対的に薄茶色であるが、これらを下地として、保管物エルボ内面の屈曲部に付着した接着剤から事故発生側の接合部方向へ連なる幅約四ミリメートルの白色物質が付着した部分(以下「A部分」という。)及びその外縁の桃色の部分、A部分が事故発生側の接合部の先端から約一七ミリメートルの位置で横方向に広がった外縁が桃色、その内側が白色、中心部が茶色の部分(以下「B部分」という。)、A部分の延長線上でB部分を超えたところに位置する桃色の部分(以下「C部分」という。)及びその付近の薄桃色の部分、B部分の反対側に位置し横方向に伸びた桃色の部分(以下「D部分」という。)等がある。

2  甲第二五号証、第四〇号証、検証の結果及び弁論の全趣旨によると、保管物パイプの状況は以下のとおりであると認められる。

保管物パイプの外面は、先端から約一七ミリメートルの範囲は薄茶色でその余の部分は濃茶色であるが、先端部分の縁に比較的多量の白色物質が付着した部分(以下「E部分」という。)、右部分から連なりその付近の保管物パイプ外面の比較的広い範囲にやや白みがかった部分(以下「F部分」という。)、E部分の反対側の縁に比較的少量の白色物質が付着した部分(以下「G部分」という。)、右部分から連なりその付近の保管物パイプ外面の比較的狭い範囲にやや白みがかった部分(以下「H部分」という。)等がある。

3  右の保管物パイプ及びエルボの状況に、甲第一二号証及び弁論の全趣旨を総合すると、まず、正常に接着された接合部においては、パイプが保管物エルボに約二九ミリメートル差し込まれたこと、パイプの管差口外面及び保管物エルボの管受口内面には接着剤が塗布されたことが認められ、また、右接着剤は、これが、差し込まれたパイプの先端の内面やパイプの先端のさらに先の保管物エルボ内面、さらには保管物エルボ内面の屈曲部に達するほど多量であったことが推認される。次に、事故発生側の接合部においては、保管物パイプが保管物エルボに約一七ミリメートル差し込まれたこと、接合部に接着剤が塗布されなかったことが認められ、また、正常に接着された接合部に塗布された接着剤が相当多量であったため、これが保管物エルボ内面の屈曲部を経由して事故発生側の接合部方向に垂れ流れてA部分を形成し、差し込まれた保管物パイプの先端に触れて横方向に広がってB部分、E部分及びD部分、G部分を形成し、さらに事故発生側の接合部にまで垂れ込んだ上拡散してF部分、H部分を形成したことが推認される。

右のとおり、事故発生側の接合部には接着剤が塗布されなかったが、他方、正常に接着されて接合部に塗布された接着剤が保管物エルボ内面の屈曲部を経由して事故発生側の接合部に垂れ込んだことにより、事故発生側の接合部は、部分的にではあるが少量の接着剤により接合されていたものと推認される。

二  保管物パイプ及びエルボが当裁判所に提出されるまでの経緯並びに本件パイプ及びエルボと保管物パイプ及びエルボとの同一性

1  原告は、保管物パイプ及びエルボが当裁判所に提出されるまでの経緯について、以下のとおり主張し、甲第三〇号証、第三一号証並びに証人青木俊彦及び同山室博資の各証言中にはこれに沿う記載又は証言がある。すなわち、

(一) 村本建設は、平成七年六月一五日の本件事故発生直後、本件パイプ及びエルボを切り取って取り外し、同社名古屋支店に持ち帰った。

(二) 英国保険団従業員青木俊彦(以下「青木」という。)は、同年六月一六日、村本建設名古屋支店に赴き、同支店建築部長西下達男(以下「西下」という。)に対し、本件パイプ及びエルボの引渡しを要請したが、断られたため、同支店において、本件パイプ及びエルボの写真を撮影した。

(三) 青木は、同年六月一九日、再度村本建設名古屋支店に赴き、西下に対し、本件パイプ及びエルボの引渡しを要請したところ、西下が引き渡したので、英国保険団名古屋支店に持ち帰り、同支店において、本件パイプ及びエルボの写真を撮影した。

(四) 英国保険団従業員山室博資(以下「山室」という。)は、同年七月二日、積水化学に対し、本件事故原因調査のため、本件パイプ及びエルボを預けた。

(五) 山室は、同年七月下旬、積水化学から本件パイプ及びエルボの返還を受けたが、本件エルボは縦方向に真っ二つに割られていた。

(六) 本件パイプ及びエルボは、平成八年五月二三日、原告代理人によって、当裁判所に提出された。

したがって、保管物パイプ及びエルボは本件パイプ及びエルボそのものである。

2  甲第三〇号証、証人青木俊彦の証言、検証の結果及び弁論の全趣旨によると、甲第一五号証の一ないし七の各写真は、青木が平成七年六月一六日に撮影したものであることが認められるところ、同号証の一の写真中の横に置かれたパイプの右から六分の一付近に白っぽい点状の部分があること、同じく左上のエルボの上側先端部の真ん中やや右付近にも、判然とはしないものの、やや白っぽい点状の部分があること、同じく右上(同号証の二の写真中の左上、同号証の六の写真中の下)のエルボに黄色のシールが貼られていないこと、同号証の二の写真中の左下のエルボ(同号証の五の写真中のエルボ。保管物エルボ)の上側先端部付近(右側先端部付近の上部)、同じく左上(同号証の六の写真中の下)のエルボの屈曲部やや右側(左側)付近及び同じく右上のエルボの左側先端部の縁にそれぞれ白っぽい部分があること、同号証の四、六及び七の各写真中のパイプの切断面の形状、同号証の五の写真中のパイプ(同号証の六の写真中の立てられたパイプ)下部のエルボとの接合部のやや上及びパイプ上部の薄茶色に変色した先端部のやや下の濃茶色の部分にそれぞれ白っぽい部分があることなどが認められ、これらを保管物パイプ及びエルボと対照すると、保管物パイプ及びエルボは全体に白色の付着物が剥離して減少してはいるものの、甲第一五号証の一ないし七の各写真の被写体は保管物パイプ及びエルボであったと認められる。

また、甲第三〇号証、証人青木俊彦及び同山室博資の各証言、検証の結果並びに弁論の全趣旨によると、甲第一八号証の一ないし九の各写真は、青木が同年六月一九日に撮影したものであることが認められるところ、同号証の一、二の写真中の横に置かれたパイプの左から六分の一付近に白っぽい点状の部分があること、同じく左(同号証の三の写真中の右、同号証の四の写真中の中央)のエルボの右側先端部付近に白っぽい部分があり、また、黄色のシールが貼られていないこと、同号証の七の写真中のエルボ(保管物エルボ)の先端部の縁の下部やや左に白っぽい部分があること、同号証の八の写真中のパイプの切断面の形状、同じくパイプ左部の薄茶色に変色した先端部のやや右の濃茶色の部分に白っぽい部分があることが認められ、これらを保管物パイプ及びエルボと対照すると、前同様、保管物パイプ及びエルボは全体に白色の付着物が剥離して減少してはいるものの、甲第一八号証の一ないし九の各写真の被写体は保管物パイプ及びエルボであったと認められる。

さらに、右各事実、甲第一二号証及び弁論の全趣旨によると、英国保険団の依頼により積水化学が調査したパイプ及びエルボも保管物パイプ及びエルボであったと認められる。

以上によれば、青木が、平成七年六月一六日、保管物パイプ及びエルボの写真を撮影してから、平成八年五月二三日、保管物パイプ及びエルボが、原告代理人によって、当裁判所に提出されるまでの経緯については、(「本件パイプ及びエルボ」を「保管物パイプ及びエルボ」と読み替えることにより)前記1(二)ないし(六)記載のとおりであると認められる。

3  そこで、次に、平成七年六月一五日の本件事故発生時から同年六月一六日に青木が甲第一五号証の一ないし七の各写真を撮影するまでの間に、本件パイプ及びエルボが保管物パイプ及びエルボとすり替えられた可能性について検討する。

西下が、青木に対し、同年六月一九日、保管物パイプ及びエルボを引き渡したという前記認定事実に甲第三〇号証、第四一号証、乙ロ第一一号証、証人橋本八郎及び同青木俊彦の各証言並びに弁論の全趣旨(村本建設の平成九年一月七日付け準備書面)を合わせ考慮すると、村本建設は、本件事故発生直後、本件パイプ及びエルボを切り取って取り外し、その支配下に置いたことが認められるから、その後同年六月一六日に青木が甲第一五号証の一ないし七の各写真を撮影するまでの間に、村本建設が本件パイプ及びエルボを保管物パイプ及びエルボとすり替えた可能性について検討する。

建築工事の施工上の瑕疵によって事故が発生した場合、一般論として、請負人が、注文者等からの責任追及を免れる意図で、事故品をすり替える可能性が考えられないわけではない(この理は、請負人自らが施工せず下請負人を使用した場合でも異ならないと解される。)。

しかしながら、請負人が事故品を入手してその施工上の瑕疵を認識し、右のような意図を有するに至った場合には、請負人は、事故品の代わりに施工上の瑕疵の存しない物件を入手して開示するはずであるが、本件において、西下が青木に引き渡した物件は、保管物パイプ及びエルボであり、その接合部に接着剤が塗布されていないという施工上の瑕疵の存する物件である。そして、右事実に甲第四一号証、乙ロ第一一号証並びに証人橋本八郎及び同青木俊彦の各証言を合わせ考慮すると、むしろ、村本建設は、本件パイプ及びエルボに施工上の瑕疵が存することを認識していなかったことが認められ、したがって、村本建設が右瑕疵に基づく責任追及を免れる意図を有していたとは考えられない。また、そもそも、給湯用配管設備の専門業者でもない村本建設が、相当長期間に渡って使用され、かつ接着剤が塗布されていない(これ自体希有なことであると考えられる。)パイプ及びエルボをわずか一日のうちに他から入手することは、時間的にも極めて困難であると考えられる。さらに、甲第三〇号証、証人青木俊彦の証言及び弁論の全趣旨(村本建設の平成九年一月七日付け準備書面)によると、青木が、同年六月一六日、村本建設名古屋支店に赴き、西下に対し、本件パイプ及びエルボの引渡しを要請したが、断られた事実が認められるところ、仮に村本建設が責任追及を免れる意図で、同日までに本件パイプ及びエルボに代わる瑕疵の存しない物件を入手していたとしたら、その引渡しを拒絶する理由はなかったはずであると考えられる。これらに加えて、甲第四一号証及び弁論の全趣旨(村本建設の平成九年一月七日付け準備書面)によると、村本建設は、同年六月一六日に青木が写真を撮影したパイプ及びエルボ並びに同年六月一九日に青木に引き渡したパイプ及びエルボが本件パイプ及びエルボであることを認めていることが認められる。

以上によれば、村本建設が本件パイプ及びエルボを保管物パイプ及びエルボとすり替えた可能性はないと考えられ、青木が同年六月一六日に撮影した甲第一五号証の一ないし七の各写真の被写体は本件パイプ及びエルボであったと認めるのが相当である。

なお、甲第一四号証の一、二及び第一六号証の二によると、保管物パイプ及びエルボの配管状態やパイプの長さと本件事故後に復旧されたパイプ及びエルボの配管状態やパイプの長さが若干異なっていることが認められるが、配管方法が変更されたに過ぎないと考えられるから、これが前記認定を左右するものではない。

4  以上に述べたところを総合すると、本件パイプ及びエルボが当裁判所に提出されるまでの経緯は前記1(一)ないし(六)記載のとおりであると認められ、したがって、保管物パイプ及びエルボは本件パイプ及びエルボそのものであると認めるのが相当である。

三  本件パイプ及びエルボと保管物パイプ及びエルボとの同一性に関する被告の主張等についての判断

1  被告は、本件パイプ及びエルボの接合部に接着剤が塗布されていなかったとしたら、本件設備完成から約五年七か月もの間、漏水が発生しないことはありえないとして、本件パイプ及びエルボと保管物パイプ及びエルボとは同一ではないと主張し、乙ロ第一一号証及び証人橋本八郎の証言中には、被告従業員橋本八郎は、本件事故当日の午後〇時ころ、本件事故現場に赴き、本件パイプの差込みしろを計測し、接合部に接着剤が塗布されているか否かを確認したが、本件パイプの差込みしろは二五ミリメートルであり、差込みしろの全面に接着剤が塗布されており垂込み程度ではなかったから、これと異なる状態の保管物パイプは本件パイプと同一ではない旨の記載又は証言がある。

そこで、以下では、保管物パイプ及びエルボによっては、完成から約五年七か月間、漏水が発生しないことはありえないか否かを、被告が名古屋市工業研究所に委託して実施された二回の試験結果を中心に検討する。

その前提として、甲第一七号証の一、第二五号証、証人山室博資の証言及び弁論の全趣旨によると、本件パイプ及びエルボの使用圧力は約三・二kgf/平方センチメートルであったことが認められる。

2  乙ロ第一号証の一ないし三、第三号証、第四号証、第一〇号証、証人鬼頭介弘及び同橋本八郎の各証言並びに弁論の全趣旨によると、名古屋市工業研究所は、被告の委託を受けて、平成八年七月一五日、本件パイプ及びエルボと同一の製造元・材質・形状のパイプ及びエルボを使用して、接着剤の有無、差込みしろの長短等で場合を分けて、接合したパイプとエルボにどのくらいの圧力を加えると接合部から漏水するか、あるいは接合部が抜けるかという実験を実施したことが認められる(以下「第一回試験」という。)。

そして、第一回試験の結果一覧表として被告が作成した乙ロ第三号証には、接着剤無し・差込みしろ一七ミリメートルの場合及び接着剤垂込み有り・差込みしろ一七ミリメートルの場合の各試験結果の記載はない。これについて、被告は、右各場合においては、試験開始後直ちに漏水し、あるいは接合部が抜けて測定不能となり実験するまでもなかったため記載しなかったものであると主張し、乙ロ第一〇号証及び証人鬼頭介弘の証言中にはその旨の記載又は証言がある。

ところで、乙ロ第三号証には、接着剤有り・差込みしろ一七ミリメートルの場合の試験結果として、「手押しポンプにて静水圧力二〇kgf/平方センチメートルをかけて一〇〇分間圧力を保持したが漏れ無し。」との記載が、接着剤無し・差込みしろ二五ミリメートルの場合の試験結果として、「テストピース三ヶに手押しポンプにて静水圧力を少しずつ上げたら六~二〇kgf/平方センチメートルの間で漏れ始めた。」との記載が、また、接着剤垂込み有り・差込みしろ二五ミリメートルの場合の試験結果として、「テストピース四ヶに手押しポンプにて静水圧力を少しずつ上げたら四~六kgf/平方センチメートルの間で漏れ始めた。」との記載がそれぞれあり、このほかに試験結果の記載はない。右試験結果のうちの後二者を対比すると、接合強度が増すはずの接着剤垂込み有りの場合の方が接着剤無しの場合より低い圧力で漏水が始まるという一見矛盾した結果となっている。また、第一回試験で使用した試験片の写真を撮影した乙ロ第四号証の写真一〇ないし一二には、接着剤有り・差込みしろ一七ミリメートルの場合の試験片、接着剤無し・差込みしろ二五ミリメートルの場合の試験片及び接着剤垂込み有り・差込みしろ一七ミリメートルの場合の試験片の写真はあるものの、接着剤垂込み有り・差込みしろ二五ミリメートルの場合の試験片の写真はない。

これらのことから、原告は、乙ロ第三号証中の前記接着剤垂込み有り・差込みしろ二五ミリメートルの場合の試験結果の記載は、接着剤垂込み有り・差込みしろ一七ミリメートルの場合の試験結果を誤って記載したものであると主張し、甲第二五号証にもその旨の記載がある。

しかしながら、パイプとエルボの寸法差、接着剤の垂込み状況及び設置状況等の条件によって、前記のような一見矛盾した結果になる可能性を否定することはできないと解され、これに乙ロ第一〇号証及び証人鬼頭介弘の証言を合わせ考慮すれば、前記記載が接着剤垂込み有り・差込みしろ一七ミリメートルの場合の試験結果を誤って記載したものであると断定することはできない(乙ロ第一号証の三、第四号証によれば、接着剤無し・差込みしろ二五ミリメートルの場合の試験片NO.16について、試験結果の記載がないのにこれが撮影された写真があることが認められることからすれば、試験実施と写真撮影との間に直接的な関係があるということはできないから、試験が実施されたのに写真が撮影されなかった試験片が存在する可能性を否定できない。また、乙ロ第一〇号証及び証人鬼頭介弘の証言によって認められるところの、接着剤有り・差込みしろ一七ミリメートルの場合に二〇kgf/平方センチメートル以上の耐圧性を有したから、同・差込みしろ二五ミリメートルの場合及び同・差込みしろ三三ミリメートルの場合の試験は実施する必要がなく、接着剤無し・差込みしろ二五ミリメートルの場合に三kgf/平方センチメートル以上の耐圧性を有したから、同・差込みしろ三三ミリメートルの場合の試験は実施する必要がないという思考方法からすると、同様に、接着剤無し・差込みしろ二五ミリメートルの場合に三kgf/平方センチメートル以上の耐圧性を有したのだから、接着剤垂込み有り・差込みしろ二五ミリメートルの場合の試験も必要がないとして実施しなかった可能性がないわけではないが、各試験がどのような順序で実施されたか、その際右のような思考方法を辿ったか否か明らかではないから、直ちに右のようにいうことはできない。)。

もっとも、右記載が試験結果の正確な記載であるとしても、少なくとも、設定条件と一見矛盾した結果となることがありうることや接着剤無し・差込みしろ二五ミリメートルの場合の試験結果のばらつきが極めて大きいことが認められ、これらの事実は接着剤の有無及び差込みしろの長短以外の条件が試験結果に多大な影響を及ぼすことを示すものといいうる。甲第一三号証、第一四号証の一、二、第一六号証の二及び乙ロ第四号症によると、第一回試験において使用されたパイプ及びエルボの寸法差や接着剤の垂込み状況等は明らかではなく(証人鬼頭介弘は、接着剤の垂込み状況は乙ロ第七号証の写真のとおりであったと証言するが、同号証の写真の撮影日は平成一〇年一月一四日であって、第一回試験の際の接着剤の垂込み状況そのものを示すものではない。)、また、使用されたパイプ及びエルボの配管状態や固定方法が本件パイプ及びエルボのそれとは全く異なっていたことが認められる。

そうすると、前記記載が試験結果の正確な記載であり、第一回試験において、接着剤垂込み有り・差込みしろ一七ミリメートルの場合は、試験開始後直ちに漏水し、あるいは接合部が抜けて測定不能となったという事実があったとしても、これをもって、保管物パイプ及びエルボによっては、完成から約五年七か月間、漏水が発生しないことはありえないということはできない。

3  乙ロ第六号証の一ないし四、第八号証、第一〇号証、証人鬼頭介弘の証言及び弁論の全趣旨によると、名古屋市工業研究所は、被告の委託を受けて、平成九年一〇月七日、パイプの外径及びエルボの内径を計測した上、第一回試験と同様の試験を実施した(以下「第二回試験」という。)が、その結果は、接着剤無し・差込みしろ一七ミリメートルの場合は、加圧できずに接合部がすぐ抜けたものから二・二kgf/平方センチメートルで漏水し始めたものまでがあり、接着剤垂込み有り・差込みしろ一七ミリメートルの場合は、〇・三kgf/平方センチメートルで漏水し始めたものから二・七kgf/平方センチメートルで漏水し始めたものまでがあり、接着剤無し・差込みしろ二五ミリメートルの場合は、一・〇kgf/平方センチメートルで漏水し始めたものから三・一kgf/平方センチメートルで漏水し始めたものまでがあり、接着剤垂込み有り・差込みしろ二五ミリメートルの場合は、一・三kgf/平方センチメートルで漏水し始めたものから二・八kgf/平方センチメートルで漏水し始めたものまでがあったことが認められる。

しかしながら、右試験結果から明らかなように、設定条件が同一であっても、試験結果に相当のばらつきがある(接着剤垂込み有り・差込みしろ一七ミリメートルの場合の最大値と最小値の差は二・四kgf/平方センチメートルもある。)だけでなく、設定条件と一件矛盾した結果となっている部分が相当あることから、第二回試験においても、第一回試験と同様、接着剤の有無や差込みしろの長短以外の条件が試験結果に相当の影響を及ぼしたものと考えられる。そして、第二回試験においても、パイプの外径が最大のものとエルボの内径が最小のものとを組み合わせた場合の実験(トップデータ)は実施されておらず、右の場合にどの程度の耐圧性を有するか明らかではないから、保管物パイプ及びエルボでは、第二回試験における接着剤垂込み有り・差込みしろ一七ミリメートルの場合の試験結果の最大値である二・七kgf/平方センチメートル以上の耐圧性を有することはありえないと断定することはできない。また、第一回試験と同様、第二回試験において使用されたパイプ及びエルボの接着剤の垂込み状況は明らかではなく(乙ロ第七号証については、前記のとおりである。)、少なくとも保管物パイプ及びエルボと同一であったとはいえず、使用されたパイプ及びエルボの配管状態や固定方法も明らかではない(第一回試験と同様であるとすると、前記のとおり、本件パイプ及びエルボのそれとは全く異なる。)。そして、仮に右諸条件が同一であったとすると、第二回試験において、接着剤垂込み有り・差込みしろ一七ミリメートルの場合に本件パイプ及びエルボの使用圧力約三・二kgf/平方センチメートルを上回る耐圧性を有するという結果となった可能性を否定することはできない。

そうすると、第二回試験の結果を考慮してもなお、保管物パイプ及びエルボによっては、完成から約五年七か月間、漏水が発生しないことはありえないということはできない。

右に述べたとおり、第一回試験、第二回試験のいずれも、接着剤の有無や差込みしろの長短については条件設定がされたものの、使用されたパイプ及びエルボの寸法差、接着剤の垂込み状況、配管状態や固定方法等の諸条件を捨象して、あるいは、少なくとも本件パイプ及びエルボ又は保管物パイプ及びエルボと同一ではない条件の下で実施されたものであり、かつ右諸条件が試験結果に多大な影響を及ぼすことが明らかであるから、右各試験の結果をもってしては、本件パイプ及びエルボと保管物パイプ及びエルボは同一であるという前記認定を左右することはできないというべきである。

4  甲第一二号証及び弁論の全趣旨によると、積水化学は、保管物パイプ及びエルボを調査して、本件事故原因は接着剤の塗布忘れであるという見解を有していたことが認められるが、これは本件パイプ及びエルボの使用圧力が一kgf/平方センチメートルであることを前提にするものであり、本件パイプ及びエルボの使用圧力が約三・二kgf/平方センチメートルであったという客観的事実と異なるから採用できないし、いずれにせよ前記認定を左右するものではない。

甲第一九号証ないし第二二号証及び弁論の全趣旨によると、財団法人化学品検査協会(以下「化学品検査協会」という。)は、平成九年四月、試験を実施し、差込みしろ一七ミリメートルの場合、〇・五kgf/平方センチメートルで漏水し一・九kgf/平方センチメートルで接合部が抜けたなどの結果であったことが認められるが、これは接合部に接着剤を塗布せずに実施されたものであって保管物パイプ及びエルボの接合部に接着剤の垂込みがあったことと条件が異なるし、寸法差や実験誤差が考慮されていないから、採用できない。

乙ロ第二号証、第三号証、第五号証、証人橋本八郎の証言及び弁論の全趣旨によると、被告は、平成八年七月一三日、野田管工有限会社において、試験を実施したことが認められるが、右試験で使用されたパイプ及びエルボが接着剤の垂込み状況を含め保管物パイプ及びエルボと同一の条件であったか否か明らかではなく、また、寸法差や実験誤差が考慮されていないから、採用できない。

乙ロ第一四号証及び弁論の全趣旨によると、積水化学は、保管物パイプ及びエルボの状況、本件パイプ及びエルボの使用圧力(三kgf/平方センチメートル)、配管方法、配管位置を前提にすると、使用開始後、短期間のうちに漏水が生じると思われ、約五年七か月の間、漏水が全く発生しないという事態はおよそ想定できないという見解を有していたことが認められるが、右見解も、漏水開始時期は確定できないとしており、また、保管物パイプ及びエルボの接合部の接着剤の垂込みによる部分接着状態や寸法差等についての厳密な検討や実験に基づくものとは認められないから(この際に、積水化学が保管物パイプ及びエルボの送付を受けた事実は認められない。)、採用できない。

5  前記のとおり、乙ロ第一一号証及び証人橋本八郎の証言中には、被告従業員橋本八郎は、本件事故当日の午後〇時ころ、本件事故現場に赴き、本件パイプの差込みしろを計測し、その接合部に接着剤が塗布されているか否かを確認したが、本件パイプの差込みしろは二五ミリメートルであり、差込みしろの全面に接着剤が塗布されており垂込み程度ではなかったから、これと異なる状態の保管物パイプは本件パイプと同一ではない旨の記載及び証言がある。

しかしながら、証人橋本八郎は、当日、メモに本件パイプの差込みしろは二五ミリメートルであった旨記載したと証言するが、そのメモは証拠として提出されておらず、右事実を裏付ける客観的証拠はない。甲第二九号証、証人高坂嘉勝及び同橋本八郎の各証言並びに弁論の全趣旨によると、本件パイプ及びエルボの耐用年数は、流体の温度や衝撃性、パイプ等の設置状況等によって異なるものの、接着状態が完全であれば、二〇年ないし二五年程度であることが認められ、また、第一回試験の結果からは、少なくとも、接着剤が塗布されている場合には、その差込みしろの長短にかかわらず、二〇kgf/平方センチメートル以上の極めて高い耐圧性を有することが認められるところ、仮に証人橋本八郎の証言どおり、本件パイプ及びエルボの接合部に接着剤が塗布されていたとしたら、何故に耐用年数よりも著しく短期間で接合部が抜けたのか、何故に本件設備中の他のパイプ及びエルボの接合部ではなく、まさに本件パイプ及びエルボの接合部が抜けたのかについての合理的説明は甚だ困難であるといわざるを得ない。

したがって、右記載及び証言は採用できない。

被告は、原告は、本件において、当初本件エルボを「HTLP二〇継手」と特定して主張していたが、「HTL」はライニング管(鉄パイプにビニールを被せたもの)を意味し、塩化ビニル管を意味する「HT」とは材質が異なるから、本件エルボと保管物エルボとの同一性に疑問があると主張し、原告が調査を依頼した積水化学作成の調査報告書(甲第一二号証)には「HTL二〇」という記載が、同じく化学品検査協会作成の試験報告書(甲第一九号証)には「HTL(エルボ)」という記載があることが認められる。

しかしながら、前記のとおり、甲第一二号証は保管物エルボを対象として実施された調査の結果に基づき作成されたものであり、また、甲第一二号証及び第一九号証のいずれも、本件パイプ及びエルボと保管物パイプ及びエルボとの同一性についての前記認定を左右するものではないから、被告の右主張は採用できない。

6  以上に述べたとおりであるから、名古屋市工業研究所の二回の試験結果を初めとする本件全証拠によっても、本件パイプ及びエルボと保管物パイプ及びエルボは同一であるという前記認定を左右することはできないというべきである。

本件パイプ及びエルボと保管物パイプ及びエルボとは同一ではないという被告の主張は採用できない。

四  被告の過失

争いのない事実等4、甲第二三号証、第二四号証の二及び弁論の全趣旨によると、被告は、本件設備の設置工事において本件パイプと本件エルボを接続する際、本件パイプの管差口外面と本件エルボの管受口内面の両面に接着剤を塗布すべき義務があったことが認められる。

ところで、前記一3及び二4記載のとおり、保管物パイプ及びエルボの接合には接着剤が塗布されておらず、また、保管物パイプ及びエルボは本件パイプ及びエルボそのものであることが認められる。

そうすると、被告は、本件設備の設置工事において本件パイプと本件エルボを接続する際、本件パイプの管差口外面と本件エルボの管受口内面のいずれにも接着剤を塗布しなかったことが認められ、この点において、被告に過失が認められる。

五  因果関係

1  被告は、本件事故原因は、本件設備の設定温度が六〇度ないし六五度であるにもかかわらず、東明観光が、本件設備を設定温度を大幅に超える七〇度ないし八〇度という高温で使用したため、早期の経年変化により管の劣化をもたらしたことにあり、このことは、平成七年六月一七日、本件建物の屋上に設置された給湯ラインポンプのグランドパッキンが劣化していたため交換された事実等によっても裏付けられるのであって、仮に被告が本件パイプと本件エルボを接続する際、その接合部に接着剤を塗布しなかったとしても、このことと本件事故との間に因果関係はないと主張する。

たしかに、甲第四号証、第六号証及び第一〇号証中には、本件設備の使用温度は約七〇度ないし八〇度であったとの記載があり、証人橋本八郎も、本件事故当日の本件設備の使用温度は八〇度であったと証言する。また、乙ロ第一一号証及び証人橋本八郎の証言によると、平成七年六月一七日、給湯ラインポンプのグランドパッキンが交換された事実が認められる。

しかしながら、証人伊藤修平の証言によれば、甲第四号証、第六号証及び第一〇号証中の前記記載は伝聞に基づくものに過ぎないし、証人橋本八郎の証言も客観的裏付けを欠くから、いずれも容易に採用できない。かえって、甲第一二号証、第二九号証、第三一号証及び証人山室博資の証言によると、本件設備の使用温度は六〇度前後であったと推認され、これを左右するに足りる証拠はない(仮に本件設備の使用温度が八〇度であったとしても、甲第三号証及び第二九号証によると、本件パイプ及びエルボの最高使用圧力は、使用温度が七六度から八〇度までであれば五・〇kgf/平方センチメートルとされていることが認められ、本件パイプ及びエルボの使用圧力約三・二kgf/平方センチメートルを上回っている。)。

また、グランドパッキンが交換された点についても、グランドパッキンの材質、使用状態や耐用年数及び取り外されたグランドパッキンの状態や交換の原因等が明らかではない上、本件パイプ及びエルボは本件設備のうちの枝分かれ部分に位置するものであって、その使用時間・耐用年数について、本件設備の根幹部分に位置する給湯ラインポンプのグランドパッキンと同様には考えられないから、右事実があるからといって、直ちに本件パイプ及びエルボも早期の経年変化により劣化していたということはできない。

2  前記のとおり、本件パイプ及びエルボの耐用年数は、条件によって異なるものの、接着状態が完全であれば、二〇年ないし二五年程度であるにもかかわらず、本件パイプ及びエルボの接合部は、完成から約五年七か月という極めて短期間で抜けたのである。また、経年変化は本件設備のあらゆる箇所で同様に進行したはずであるのに、本件事故は、本件設備中の他のパイプ及びエルボの接合部ではなく、まさに本件パイプ及びエルボの接合部において発生したのである。

右各事実に照らすと、本件事故原因を早期の経年変化によるものというだけでは全く不十分であり(経年変化の影響は、完成後約五年七か月間、本件パイプ及びエルボの接合部から漏水が発生しなかったのに、右期間経過後に接合部が抜けたことに現れているが、これ以上のものではないと考えられる。)、本件パイプ及びエルボの接合部に接着剤が塗布されていなかったことを抜きにして本件事故原因を説明するのは不可能であるといわざるを得ない。

以上に述べたところによれば、本件パイプ及びエルボの接合部に接着剤を塗布しなかったという被告の過失と本件事故との間の因果関係を肯定することができるというべきである。

六  損害額

甲第四号証、第六号証、第八号証、第一〇号証、第三八号証、証人伊藤修平の証言及び弁論の全趣旨によると、本件事故によって、東明観光は、後記1ないし3記載のとおり、合計四八九八万一一二四円の損害を、マツヤ観光は、後記4記載のとおり、合計一二九七万六六五九円の損害をそれぞれ被ったことが認められる。

したがって、東明観光及びマツヤ観光は、それぞれ、被告に対し、不法行為に基づき、右各金額の損害賠償請求権を取得した。

1  本件建物の損害額(東明観光の損害) 小計二九三六万四三一二円

(一) 仮設工事       四二万円

(二) 地下一階店舗     一二万五〇〇〇円

(三) 一階フロント      四万五五〇〇円

(四) 一階事務室      五二万六一九五円

(五) 一階会議室      三六万九六八〇円

(六) 一階廊下       六四万四六〇五円

(七) 一階トイレ       七万円

(八) 一階ホール     三八〇万七四〇〇円

(九) 二階廊下       九九万九五八〇円

(一〇) 二階客室(八室) 二二五万八一五五円

(一一) 三階廊下      九五万三一五〇円

被告は、本件事故は本件建物三階の床から下に影響を与えたに過ぎないから、三階の壁面や天井には損害は発生していないと主張し、たしかに、証人伊藤修平の証言及び弁論の全趣旨によると、三階は床から高さ一センチメートル程度が浸水したに過ぎないことが認められる。

しかしながら、乙ロ第一一号証によると、平成七年六月一七日、二階のみならず三階の天井クロスも張り替えられた事実が認められるところ、甲第四号証、第三八号証、証人伊藤修平の証言及び弁論の全趣旨によると、本件事故により発生した水蒸気によって、三階の壁面や天井に染みが生じたり、これらが異臭を発していたことが認められ、また、ホテル営業という本件建物の用途からすれば、床、壁面及び天井の外観の素材や色彩の統一性ないし調和が要求される点をも考慮する必要があり、これらの理由によって、前記のとおり、三階の天井クロスが張り替えられたものと推認される。

そうすると、三階廊下については、本件事故によって、その壁面や天井にも損害が発生したと認めるのが相当である。

この点に関する被告の主張は採用できない。

(一二) 三階客室(九室) 二一八万八九一八円

原告は、三階客室(九室)の損害は合計二六二万六二〇〇円であると主張し、甲第四号証には、三階客室(九室)の損害として、天井三〇万六〇〇〇円、壁面一一三万九二〇〇円、床カーペット四七万七〇〇〇円、ヘッドボード三八万四〇〇〇円、荷揚げ・降ろし三二万円で合計二六二万六二〇〇円との記載がある。

このうち、三階客室の床、壁面や天井の損害については、(一一)に記載したのと同様の理由により、これを認めることができる。

しかしながら、前記のとおり、本件事故は本件建物三階の床から下に影響を与えたものであって、三階は床から高さ一センチメートル程度が浸水したに過ぎないから、三階客室内に設置されていたヘッドボードに損害が発生したとは考え難い。甲第四号証及び証人伊藤修平の証言によると、甲第四号証最終丁の添付写真は三階客室内の状況を撮影したものであることが認められるが、右三葉の写真(特に左)には汚損を示す印が記載されていないから、三階客室内のヘッドボードが汚損した事実を認めることはできない。また、ヘッドボードが、本件事故により発生した水蒸気によって、染みを生じたり、異臭を発したとも考え難い。

そうすると、三階客室(九室)の損害のうち、ヘッドボード三八万四〇〇〇円及び荷揚げ・降ろし三二万円のうち右に付随する部分は、これを損害と認めることはできない。

したがって、三階客室(九室)の損害は、天井三〇万六〇〇〇円、壁面一一三万九二〇〇円、床カーペット四七万七〇〇〇円及び荷揚げ・降ろし三二万円を金額比により按分した二六万六七一八円(円未満四捨五入)の合計二一八万八九一八円と認めるのが相当である。

320,000×(306,000+1,139,200+477,000)÷(306,000+1,139,200+477,000+384,000)= 266,717.5

(一三) 電気設備(九室。三、二、一階) 七四五万六二〇〇円

原告は、電気設備(九室。三、二、一階)の損害は合計一三八三万円であると主張し、甲第四号証には、電気設備(九室。三、二、一階)の損害として、幹線動力設備(電工費・雑材共)二六五万二〇〇〇円、電灯コンセント設備七〇八万二〇〇〇円(同)、非常放送設備(同)一一二万四〇〇〇円、自動火災報知器設備(同)二九七万二〇〇〇円で合計一三八三万円との記載があり、証人伊藤修平の証言及び右の「電工費・雑材共」との記載によると、電灯コンセント設備の損害額七〇八万二〇〇〇円はコンセントの部品代のみならず電灯コンセント設備の電気工事費用や、雑材等一切を含むものであることが認められる。

しかしながら、弁論の全趣旨によると、電灯コンセント設備の損害額七〇八万二〇〇〇円が本件建物全体の設備を更新した金額である可能性を否定できない。

そうすると、本件建物は地下一階付九階建であり、甲第四号証及び弁論の全趣旨によると、一階当たり概ね九室あることが認められるが、本件事故によって、一階ないし三階のうちの九室の電灯コンセント設備に損害が発生したのであるから、原告が主張する損害額七〇八万二〇〇〇円のうち、本件事故と因果関係のある損害はその一〇分の一である七〇万八二〇〇円と認めるのが相当である。

したがって、電気設備(九室。三、二、一階)の損害は合計七四五万六二〇〇円と認められる。

(一四) 空調換気設備 五二万八二二〇円

原告は、空調換気設備の損害は合計九六八万四八〇〇円であると主張し、甲第四号証には、空調換気設備の損害として、ファンコイルユニット(客室・フロント二三台)一八二万一〇〇〇円、ヒートポンプ(五セット)三六八万八〇〇〇円、天井換気ファン三一万七八〇〇円、施工費三八五万八〇〇〇円で合計九六八万四八〇〇円との記載がある。

しかしながら、甲第四号証、第三八号証、証人伊藤修平の証言及び弁論の全趣旨によると、右損害の認定は保険鑑定人伊藤修平が村本建設の口頭報告を聴取したことに基づくものに過ぎないところ、村本建設が十分な調査をしたか否か明らかでない上、乙ロ第一一号証、第一二号証及び第一三号証の各一、二、第一五号証、第一六号証の一、二によると、平成七年七月三日、四日の時点において、ファンコイルユニット(二三台)及びヒートポンプエアコン(一階の一台及び地下一階の二台)に異常がなかったこと、ヒートポンプエアコン五セットはいずれも本件事故以前に設置されたものであるが、平成一一年一月二七日の時点においても使用され正常に作動していたことが認められる。

そうすると、空調換気設備の損害のうち、ファンコイルユニット(客室・フロント二三台)一八二万一〇〇〇円、ヒートポンプ(五セット)三六八万八〇〇〇円及び施工費三八五万八〇〇〇円のうち右に付随する部分は、これを損害と認めることはできない。なお、乙ロ第一二号証の一、二によると、本件事故発生後、空調設備の部品交換や点検修理が実施されたことが認められるが、部品交換や点検修理は本件事故発生以前にも実施されており、事故発生後に実施された部品交換が通常の保守・メンテナンス作業の範囲を超えるものとは認められないから、これをもって、本件事故と因果関係のある損害と認めることはできない。

したがって、空調換気設備の損害は、天井換気ファン三一万七八〇〇円及び施工費三八五万八〇〇〇円を金額比により按分した二一万〇四二〇円(円未満四捨五入)の合計五二万八二二〇円と認めるのが相当である。

3,858,000×317,800÷(1,821,000+3,688,000+317,800)= 210,419.5

(一五) 床(大理石) 三万五九二八円

(一六) 六月一五日当初クリーニング 三五万円

(一七) ホールエレベーター修理 七二万九〇〇〇円

(一八) エアコン 〇円

原告は、エアコンの損害は八四万五〇〇〇円であると主張し、甲第四号証には、ダイキン(エアコン)三台八四万五〇〇〇円との記載がある。

しかしながら、甲第三九号証の一、二、乙ロ第一一号証、第一六号証の一、二、証人伊藤修平の証言及び弁論の全趣旨によると、エアコンは、前記(一四)記載のファンコイルユニット(客室・フロント二三台)又はヒートポンプ(五セット)に含まれている可能性があり(甲第四号証には、エアコンの損害の内訳概要として「ホール通路側設置であり」との記載があるから、ここにいうエアコンとは一階ホールに設置されたものと解されるところ、甲第三九号証の一、二、証人伊藤修平の証言及び弁論の全趣旨によると、一階の空調換気設備は合計八台であったことが認められ、他方、一階には、乙ロ第一六号証の一、二によると、ヒートポンプエアコン三台が、乙ロ第一一号証によると、ファンコイルユニット五台がそれぞれ設置されていたことが認められるから、このほかに一階にエアコンが設置されていたと認めることはできない。)、かつ、これらに損害が発生したと認めることができないのは前記(一四)記載のとおりである。

したがって、エアコンの損害は、これを認めることはできない。

(一九) 電話交換機取替 四〇九万七〇〇〇円

(二〇) パントリー照明取替 五万九九九〇円

(二一) 諸経費 〇円

原告は、諸経費の損害三三四万五七三五円を主張し、甲第四号証にはその旨の記載があるが、その内容が明らかではなく、ほかにこれを損害と認めるに足りる証拠はない。

したがって、諸経費の損害は、これを認めることはできない。

(二二) 消費税相当額((一)ないし(二一)の合計二五六六万四五二一円の三パーセント。円未満四捨五入) 七六万九九三六円

(二三) 減価償却(五パーセント。円未満四捨五入) ▲一三二万一七二三円

(二四) 取片付費用 四二五万一五七八円

原告は、取片付費用の損害は四四八万三七〇〇円であると主張し、甲第四号証には、取片付費用の損害として、一階フロント一万三〇〇〇円、一階事務室二四万九二〇〇円、一階会議室一九万六五〇〇円、一階廊下二七万五〇〇〇円、二階廊下六二万円、二階客室(八室)一一四万円、三階廊下五八万五〇〇〇円、三階客室(九室)一二一万五〇〇〇円、電気設備(九室。三、二、一階)(推定)二〇万円、空調換気設備(推定)九六万円との記載がある。

しかしながら、前記のとおり、三階客室(九室)、電気設備(九室。三、二、一階)及び空調換気設備の各損害については、その一部を認めることができず、したがって、取片付費用もこれに応じて減少すると解される。そこで、右各損害に付随する取片付費用を、右各損害が認められる金額の比率に応じて算出すると、三階客室(九室)一〇一万二六九三円(円未満四捨五入)、電気設備(九室。三、二、一階)一〇万七八六二円(同)、空調換気設備五万二三五九円(同)となる。

1,215,000×2,188,918÷ 2,626,200= 1,012,693.3

200,000×7,456,200÷13,830,000= 107,826.4

960,000× 528,220÷ 9,684,800= 52,359.4

したがって、取片付費用の損害は合計四二五万一五七八円と認めるのが相当である。

2 什器備品及び絵画の損害額(同) 小計一八二四万六八一二円

(一) フロント用備品 二七八万円

(二) 事務所・ロビー・会議室備品 六五八万五〇〇〇円

(三) パントリー用備品 二四万八〇〇〇円

(四) 客室(二階)内備品等 二五四万四〇〇〇円

原告は、客室(二階、三階)内の備品の損害は合計四五〇万円であると主張し、甲第四号証及び第六号証には、電話機・ファックス・テレビ・ナイトパネル・システム冷蔵庫・冷蔵庫内デバイスボード・二階用自動販売機の損害合計四五〇万円との記載がある。また、原告は、客室用ファックスの追加損害五八万八〇〇〇円を主張し、甲第四号証及び第六号証にはその旨の記載がある。

しかしながら、前記のとおり、本件事故は本件建物三階の床から下に影響を与えたものであって、三階は床から高さ一センチメートル程度が浸水したに過ぎないから、前記備品のうち三階客室内に設置されていたものについては、損害が発生したとは考え難い。三階客室内の状況を撮影した甲第四号証最終丁の三葉の添付写真には汚損を示す印が記載されていないから、三階客室内の備品が汚損した事実を認めることはできない。また、備品が、本件事故により発生した水蒸気によって、染みを生じたり、異臭を発したとも考え難い。

したがって、三階客室内の備品の損害は、これを認めることはできないというべきである。

ところで、前記損害内訳のうち、二階用自動販売機以外は二階と三階のいずれにどれだけの個数が設置されていたか明らかではなく、また、二階用自動販売機の損害額も明らかではない。

そうすると、客室(二階)内備品等の損害額を具体的に確定することはできないが、合計五〇八万八〇〇〇円の損害額の中に二階用自動販売機の損害額が含まれていることを考慮すると、少なくともその二分の一である二五四万四〇〇〇円を下回ることはないと解される。

したがって、客室(二階)内備品等の損害は二五四万四〇〇〇円と認めるのが相当である。

(五) カーテン(二階、八箇所) 一〇万〇八〇〇円

(六) ライディングデスク(二階、八箇所) 六七万二〇〇〇円

(七) カーテン(三階、八箇所) 一〇万〇八〇〇円

被告は、本件事故は本件建物三階の床から下に影響を与えたに過ぎないから、三階のカーテンには損害は発生していないと主張し、たしかに、前記のとおり、三階は床から高さ一センチメートル程度が浸水したに過ぎないことが認められる。

しかしながら、本件建物はホテルとして利用されていたものであるところ、甲第四号証、第六号証、第三八号証、第四一号証、証人伊藤修平の証言及び弁論の全趣旨によると、三階客室のカーテンが、本件事故により発生した水蒸気によって、染みを生じたり、異臭を発していたことが認められ、ホテル客室のカーテンとしては使用不能となったといわざるを得ない。

したがって、カーテン(三階、八箇所)の損害は、これを認めることができる。

この点に関する被告の主張は採用できない。

(八) ライディングデスク(三階、八箇所) 〇円

原告は、ライディングデスク(三階、八箇所)の損害六七万二〇〇〇円を主張し、甲第四号証及び第六号証にはその旨の記載がある。

しかしながら、前記のとおり、本件事故は本件建物三階の床から下に影響を与えたものであって、三階は床から高さ一センチメートル程度が浸水したに過ぎないから、三階客室内に設置されていたライディングデスクに損害が発生したとは考え難い。三階客室内の状況を撮影した甲第四号証最終丁の三葉の添付写真(特に中央)には汚損を示す印が記載されていないから、三階客室内のライディングデスクが汚損した事実を認めることはできない。また、ライディングデスクが、本件事故により発生した水蒸気によって、染みを生じたり、異臭を発したとも考え難い。これに反する甲第四号証及び第六号証中の各記載は採用できない。

したがって、ライディングデスク(三階、八箇所)の損害は、これを認めることはできない。

(九) ベッド 一八九万四〇〇〇円

ベッドは、ライディングデスクとは素材が異なるところ、甲第四号証、第六号証、第三八号証、証人伊藤修平の証言及び弁論の全趣旨によると、その素材が、本件事故によって流出した水を吸収し、あるいは発生した水蒸気によって、染みを生じたり、異臭を発したものと認められる。

したがって、ベッドの損害は、二階客室に設置されていたものだけでなく、三階客室に設置されていたものについても、これを認めることができる。

(一〇) 伝票他事務用品 一四一万八七三〇円

(一一) 封筒、バインダー 一〇万二〇九二円

(一二) ユニフォーム 一〇三万一〇〇〇円

(一三) 部屋用備品(櫛・紙タオル) 四四万一二五〇円

(一四) ティッシュ 八〇四〇円

(一五) 消火器 七万七四〇〇円

(一六) ファックス(客室用追加) 〇円

前記(四)の中で合わせて判断したので、ここでは別個の損害として取り上げない。

(一七) 客室用タオル(バスタオル・フェイスタオル) 五万二五〇〇円

(一八) 絵画 四万一二〇〇円

(一九) 取片付費用 一五万円

3 事務用品の損害額(同) 小計一三七万円

(一) フロンサーナイン取替 一三四万円

(二) 取片付費用 三万円

4 地下一階の店舗内の損害額(マツヤ観光の損害) 小計一二九七万六六五九円

(一) 仮設工事 四五万円

(二) 石・タイル工事 三五万円

(三) 天井工事 三六八万〇四七〇円

(四) カウンター工事 一〇七万七五〇〇円

(五) トイレ・洗面所内装工事 一二六万九二五〇円

(六) 戸棚工事 一三〇万円

(七) 装飾・金物工事 二三九万六〇〇〇円

(八) 床工事 四八万九〇〇〇円

(九) 電機設備工事 一六万七〇〇〇円

(一〇) 照明器具工事 二二三万六〇〇〇円

(一一) 空調設備工事 〇円

原告は、空調設備工事の損害合計三四八万五〇〇〇円を主張し、甲第八号証には、空調設備工事の損害として、天理カセット式エアコン(二セット)二三二万円、フード脱着工事三六万五〇〇〇円、フード内自動消火器取替工事他(材工共)八〇万円で合計三四八万五〇〇〇円との記載がある。

しかしながら、甲第三九号証の一、乙ロ第一一号証、第一六号証の一、二及び弁論の全趣旨によると、右天理式カセットエアコン(二セット)は、前記2(一四)記載のヒートポンプ(五セット)に含まれている可能性があり、かつ、これらに損害が発生したと認めることができないのは前記のとおりであり、また、その他の工事も右に付随するものと解されるから、これらを損害と認めることはできない。

したがって、空調設備工事の損害は、これを認めることはできない。

(一二) 諸経費 〇円

原告は、諸経費の損害四〇万五七八〇円を主張し、甲第四号証にはその旨の記載があるが、その内容が明らかではなく、ほかにこれを損害と認めるに足りる証拠はない。

したがって、諸経費の損害は、これを認めることはできない。

(一三) 消費税相当額((一)ないし(一二)の合計一三四一万五二二〇円の三パーセント。円未満四捨五入) 四〇万二四五七円

(一四) 新旧交換差益控除(一〇パーセント。円未満四捨五入) ▲一三八万一七六八円

(一五) 取片付費用 五四万〇七五〇円

七  損害保険契約の締結、保険金支払及び保険代位

1  甲第四号証ないし第七号証、第一〇号証、第一一号証、第四二号証ないし第四四号証の各一並びに弁論の全趣旨によると、英国保険団と東明観光は、平成六年一〇月二六日、英国保険団を保険者、東明観光を保険契約者兼被保険者とする別紙保険契約目録一ないし三記載の各損害保険契約を締結したことが認められ、甲第八号証、第九号証、第四五号証の一及び弁論の全趣旨によると、英国保険団とマツヤ観光は、同日、英国保険団を保険者、マツヤ観光を保険契約者兼被保険者とする別紙保険契約目録四記載の損害保険契約を締結したことが認められる。

2  甲第五号証、第七号証、第一一号証、第四二号証ないし第四五号証の各二、乙ロ第一一号証、証人山室博資の証言及び弁論の全趣旨によると、英国保険団は、平成七年一〇月一九日、東明観光に対し、別紙保険契約目録一ないし三記載の各損害保険契約に基づき、本件事故の保険金として、合計七五九八万五七二二円を、マツヤ観光に対し、別紙保険契約目録四記載の損害保険契約に基づき、本件事故の保険金として、合計二一三九万五三五〇円をそれぞれ支払ったことが認められる。

したがって、英国保険団は、右各損害保険契約の約款の定め又は商法六六二条一項に基づく保険代位により、東明観光の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権四八九八万一一二四円及びマツヤ観光の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権一二九七万六六五九円を取得した。

八  まとめ

1  弁論の全趣旨によると、原告は、平成一〇年六月三〇日、脱退原告アライアンス・アツシュアランス・カンパニー・リミテッド及びフイニックス・アツシュアランス・パブリック・リミテッド・カンパニーが我が国において保有していた保険契約の全部を包括して承継したことが認められる。

2  本件事案の性質、難易度、認容額等に鑑みると、原告の弁護士費用は三五〇万円と認めるのが相当である。

3  よって、原告は、被告に対し、東明観光及びマツヤ観光から保険代位により取得(一部、脱退原告アライアンス・アツシュアランス・カンパニー・リミテッド及び同フイニックス・アツシュアランス・パブリック・リミテッド・カンパニーから承継)した被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権六一九五万七七八三円及び弁護士費用三五〇万円の合計六五四五万七七八三円並びにこれに対する不法行為の後である平成七年一〇月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

第四結論

以上によれば、原告兼参加人の請求は、被告兼被参加人に対し、六五四五万七七八三円及びこれに対する平成七年一〇月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し、その余の部分は理由がないから棄却することとして、主文のとおり、判決する。

(裁判官 中園浩一郎)

保険契約目録

一1 保険の種類 店舗総合保険

2 証券番号 五〇四FF〇二六九五三

3 物件区分 一般物件

4 保険料払込方法 一括払

5 保険期間 平成六年一〇月三一日から平成一一年一〇月三一日まで

6 保険金額 五億円

7 保険料 二八七万円

8 保険の目的の所在地 名古屋市中区栄五丁目一番七号

9 建物内の職作業 ビジネスホテル及び飲食店

10 保険の目的及びこれを収容する建物の構造及び用法 鉄骨ALC板張地上九階地下一階建ホテル建物一棟

11 建物付属物 畳、建具、造作、門、塀及び垣根を含む。

12 保険代位 保険者である原告が、損害に対して保険金を支払ったときは、その支払った保険金の額を限度として、かつ、被保険者の権利を害さない範囲内で、被保険者が第三者に対して有する権利を代位取得する。

二1 保険の種類 店舗総合保険

2 証券番号 五〇四FF〇二六九七九

3 物件区分 一般物件

4 保険料払込方法 一括払

5 保険期間 平成六年一〇月三一日から平成七年一〇月三一日まで

6 保険金額 二六八〇万円

7 保険料 四万三二一〇円

8 保険の目的の所在地 名古屋市中区栄五丁目一番七号

9 建物内の職作業 ビジネスホテル

10 保険の目的及びこれを収容する建物の構造及び用法

<1> 営業什器備品一式

<2> 絵画(スノーファイア・ヒロヤマガタ作)

但し、鉄骨ALC板張地上九階地下一階建ホテル建物一棟内収容

11 保険代位 一12に同じ

三1 保険の種類 動産総合

2 証券番号 五〇四DS〇〇〇八五二

3 契約方式 法人特定動産

4 保険料払込方法 一括払

5 保険期間 平成六年一一月五日から平成七年一一月五日まで

6 保険金額 二五〇万円

7 保険料 八二八〇円

8 保険目的の主たる保管場所 名古屋市中区栄五丁目一番七号

9 保険の目的物 事務用機器フロンサーナイン(NO.HT九〇一)

10 特約条項 万引危険不担保、使用人等の不正行為不担保

11 保険代位 一12に同じ

四1 保険の種類 店舗総合保険

2 証券番号 五〇四FF〇二六九九五

3 物件区分 一般物件

4 保険料払込方法 一括払

5 保険期間 平成六年一一月五日から平成七年一一月五日まで

6 保険金額 二五五〇万円

7 保険料 三万九七八〇円

8 保険の目的の所在地 名古屋市中区栄五丁目一番七号

9 建物内の職作業 料理飲食店

10 保険の目的及びこれを収容する建物の構造及び用法 内装設備一式(鉄骨ALC板張地上九階地下一階建物のうち地下一階店舗部分内)

11 保険代位 一12に同じ

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!